時の経つのは早いもので、修行のような猛烈な暑さの夏が過ぎ、街にも時折涼しげな秋の匂いがする風を感じはじめたと思えば、9月も中旬だ。
禁漁まであとわずかしかないじゃないか。
コロナ禍の影響もあり、今年は例年に比べると断然川に行っていない気がする。
日本語には腹八分目という格言のようなものがあるが、残念ながら、今年の釣行はそれどころではなかった気がする。
禁漁まであと数日。
ライフスタイルの優先権をフライフィッシングにセットしよう。
夜通しで仕事をこなし、少し休憩して、昼前から大好きな日川に向い、以前から気にかけていた、天目山温泉の脇を流れる小さな支流にお邪魔させていただいた。
天目山温泉(やまと天目山温泉 やまと ふれあいやすらぎセンター)
以前から、日川の上流でフライフィッシングを楽しませていただいた後、必ずここ天目山温泉に寄って、温泉水をピックして帰ってきていた。
なんと、100円で100リットル!施設の下に給水所的な箇所がある。
自動販売機みたいになっていて、100円入れると、ガバガバ温泉水が100リットル出てくる。
地元の人は軽トラに大きなタンクを積んで来て、この温泉水を調達している。
私は、20リットルのタンクを一つ分。
アルカリ性のこの温泉水は、お風呂に良し、料理に良し、お茶、コーヒーにビンゴ!なのである。かなりハマっている。
この天目山温泉に通ううちに、脇に小さな川が流れていることに気がついたのである。
駐車場から遊歩道のような道があり、そのまま川に降りれるじゃないか。
これは行くしかない、となっていたわけである。
場所はこちら(Google Map)

[affi id=123]
小さな素晴らしき川
地図で調べたところ、どうやらこの天目山温泉の脇を流れる川は、焼山沢であることがわかった。
はるか上流から、天目山温泉の脇を通り、やがて日川に出会う川である。
今回は、天目山温泉施設の下から入渓し、やがて現れる堰堤上まで一旦降りてから釣りあがってみることにした。
堰堤上に着くと、白い砂浜が広がった世界。
鹿や猪の足跡も多く、この山に住む動物たちの美しい水飲み場だ。熊の足跡は見なかったので一安心。。
堰堤の下まで行けそうであったが、今回はここをスタート地点とした。

リーダーに8Xのティペットをセットして、川を登りはじめた。
スタート直後から、素晴らしい渓相がはじまる。
いかにも岩魚が好きそうな小ぶりなポイントの連続で、ロッドも降りやすく、気分が上昇する。
川のせせらぎ、濃いグリーン、清らかな空気。
今年もあと少ししかこの素晴らしき世界に立つことができないのかと思うと、少し寂しくなった。

しかし、良いポイントの連続なのだが、反応がない。。
あらー!どうしちゃったのかな?
#14のエルクヘアカディスにパイロットフライを命じた後、ブラックパラシュート、困った時のフローティングニンフ、普段使わないビーズヘッドニンフなどなど、手持ちのフライボックス全レパートリーを結ぶも、やっぱり反応なし。
浮いてダメ、沈めてダメ。
いやー、困った。
魚が居ないのかな?そんなわけないでしょ。そんなわけ、ねー?居ないだなんて。
でもだんだん焦ってくる。まさか、ねー?そんなわけないでしょ。
焦りを通り越して、悲しくなってきた矢先、#14の半沈み系アントを投げた時、下からゆっくり銀色の輝きが出てきた。
が、フライの前でクルっと反転、プイっと帰っていった。
岩魚。
スレてるとか言わないよ。
俺のフライに魅力がなかったんだよ。
でも、なんだー!居るじゃないの!
はぁー、良かった!救われた。
石に腰掛け、深呼吸。
蝉の声が聞こえる。
良かったねー!と、歌ってる。
ここまで辛かったー!涙
泣きっ面が笑顔に戻り、また登る。
んー、でもそれからまた無反応状態に陥る。
でもいいじゃん!居たんだから。
でも釣りたい、逢いたい、欲がでるね人間って。
その後も、振るわ、出ないわ、出るの冷や汗だけのヘビロテ。
はぁー、マジか。辛くなってきた。
蝉のセレナーデも、もう聞こえない。
居ないはずがない、素晴らしい渓相は悲しいほどに続く。

[affi id=125]



[affi id=121]
天目山温泉岩魚
あぁ、もう少しでゴール地点だよ。
こんなに素晴らしい川なのに。
居ないはずないのに。
あぁ、どうしよう。
最後のポイントだ。
慎重に、慎重に。
下手クソのくせに、ドラッグがかからないように、じっくり流れを読んだフリなどしてみる。
あそこだ。
あの石の先の流れの上にフライを落とそう。
ダメ元で、赤くダイドしたピーコックハールボディの#14パラシュートに魂を入れる。
っつーか、もうこれしか残ってない。。
頼む!虫になりきっておくれ!お前を必ずベストポイントに着水させてみせるから!

上、左右の安全確認をして、ギーっとフライラインを出して、いざ!キャスト!
気分はもう、岩井渓一郎か、里見栄正か。(俺にだってできるさ!)
ビュン!左手の指先をフライラインがしゅるしゅる滑って伸びていく。
まぐれ!で、思い通りのポイントにフワッとフライを落とせた。ひゃー!ラッキー!
ドラッグもかからず、ゆっくりと流れに乗って漂うフライ。
すると、狙った石の影からスーっと、まるでくノ一のように現れた影。
きた!
パシャ!っと水面が小さく割れた。
喰った!
見えてる!
フライを咥えて、川底に戻ろうとするその瞬間まで我慢!(これヤマメと違う大事なところって勝手に思ってる)
ロッドを煽る。
フッキング、できるだけ優しく。
かかった!
慌てずにラインのテンションが弱まらないように丁寧に引き寄せる。
お願い!バレないで!
バラしたくないけど、可哀想だからあんまり強く引き付けられない、崖っぷちのテンション。
今の俺にロッドのしなりを楽しんでいる暇はない。
あと少し、もう少し。
背中のネットに手をまわす。
今日はネット落としてない、ちゃんとある!
よし、よし、ほら、もうちょい!
暴れるくノ一。
クネっ、クネっとセクシーにダンスする。
何が起こったのか分からず、慌てる彼女の目も真剣だ。
手裏剣でも飛んできそうな攻撃的な目。
目が合った!(気がした)
ようやく、やっと、ネットイン。
フーっ。良かったよ。
最後の最後で出会えた、天目山温泉岩魚。
美しい身体に力強いヒレ。
ネットの中で彼女も息を整えている。
待っていてくれたのね。
だいぶジラされちゃったよ。(4時間も)
ふーっ、困難の後に出逢えた、ある意味思い出深い子になりました。
ずーと見ていたいけど、早く川に戻してあげたい。
ありがとう、またね!
ウィンクするかのように一瞬キラっと身体をくねらせ、彼女はゆっくりと、あの石の先に戻っていった。
あぁー、なんて美しいんだろう、この瞬間。
みかん色に染まった空を見上げる。
小鳥を掴むように優しく包んでリリースしたちょっとヌルっとした手の匂いを嗅ぐ。
クン、クン。
あぁー、俺ってやっぱり匂いフェチ。
さてさて、かなりの冷や汗をかいてしまったので、帰りにひとっ風呂!とワクワクしていたのですが、この日は残念ながら天目山温泉は休館日でした。
温泉水だけゲットして、暮れなずむ日川を後に、帰路に向かいました。
大月ICから中央フリーウェイに乗るいつもの帰り道。
談合坂あたりで、ハンドルから手を離し、また匂いを嗅いでニヤけながらアクセルを踏む。
クン、クン。
あの子は今頃暗い川の中で何してるのかな?
ありがとう。
今日も素晴らしい一日に感謝です。
動画はこちら(YouTube)